第一週  マスオさん直前

(スペース・カフェってどういう意味なんだろう?)

 三人家族は公園で遊んだ帰りにバンフで軽食を食べていた。2階から 見下ろすと、駅から出てくる人の多さに驚き、次にそれぞれの表情から いろんな生活があることを感じることができる。

 マモルは八幡山で暮らし始めて15年になる。現在、妻と子供一人の 三人暮らし。小さな我が家は子供と犬の成長で改築を迫られていた。
一念発起して多額の借金をして家を改築することになり、一時妻の 実家に間借りすることになってしまった。

「アパートでも借りればいいじゃないか!」 マモルは憤慨した。
「声が大きいわよ。恥ずかしいじゃない。」
「・・・・・・」
「だって、これから借金するのよ。節約しないと」 妻が反論。
「犬だっているんだし、借りられっこないわよ」 が駄目押しとなった。

結婚以来、男気の強いマモルは妻に対し強い夫を演じ、子供には 強い父親を見せてきた。
家庭は絵に描いたような円満ぶりであったが、ここにきて、こと金銭に 関しては意地だけではどうにもならず、保ち続けた「男の意地」は揺らぎ 始めていた。

三人はバンフを出て、階段を下りる。

(なんかいつもより、長く感じるぞ)

マモルは某家電メーカーの営業マン。会社帰りに同僚とイッパイやる のが唯一の楽しみ。週二日は午前様となる。

「おまえがマスオさんか、似合わないなぁ。」
「おい、マモル。カミさんの実家に移っても、飲めるんだろな?」

「分からないよ。あっちの生活が分からないんだから」

引越しまであと一週間。今まで感じたことの無い窮屈さを不安に思う マモルはだった。


第二週  いよいよマスオさん

 松沢病院正門前のツルヤで日本酒を選んでいた。若旦那はいつも「今日はこの酒が美味しいと思うよ」とアドバイスしてくれる。
どうせあげるのだから、何でもいいかなと思いながらも、若旦那に年配向けの日本酒を選んでもらう。

「お父さん、三ヶ月ほどの間お世話になります。」
頭を深々と下げ、二本紐で縛った日本酒を差し出した。

マモルは礼儀にはうるさい方だと自負していた。数ヶ月の我慢がきっと報われるはずと思い、男の意地を投げ捨て、妻の実家に溶け込む努力を始めた。

「おっ、こいつはすまんね。でもマモル君、悪いが妻にも挨拶しておいてくれよ。」
「 ? 」

普通、亭主に筋を通せば、妻にも通ると思っていたから絶句した。
こらから先の不安を増長させながらも、カミさんの母親に挨拶をした。

「やーねー、マモルさん、そんなに堅苦しいことして。お父さんから聞いているからいーのよ。」
(なら、させるなよ)息をのんだ。

結婚以来、頑固な亭主を貫いてきた男は、生まれて初めてムコに入った。
別にムコがどうのと言うわけではない。初めからそう言う約束なら覚悟はしていたはず。
妻の両親とは結婚前にはありがちなモメゴトはあったにしても、近年はそれなりに接して来れた。

何と言っても、マモルには自分が稼いでると言う自信があった。
妻の両親に借金の手助けをお願いしたわけでもない。
借金を返すのは自分自身であり、妻の両親も認めてくれると信じていた。

たった数ヶ月の間に、15年かけて培って来た「強い父親」よりもっと強い人を、子供に見せるのが不安だった。


第三週  マスオさんほやほや

改札を出て、角のタバコ屋さんでまとめ買いをするのが、マモルの決まり。

(あのでっかいワンちゃん、いるかな?)

今日は仕方なく販売機でいくつか買い込み、カバンに入れた。

覚悟はしていたはずなのに。思いもよらない気遣いの連続である。
妻の実家ではタバコを吸うものはなく、愛煙家のマモルは庭に出て一服をした。

「オレはなんでこんなことしてるんだ?」

疑問と不満を抱いたホタルは、暗闇の中でポツンとついたり、消えたり繰り返していた。

別に好かれようと努力しているのではない。
ただ平和を求めてるだけ。

勝手の分からないキッチンに夜中侵入し、氷を出そうと冷凍庫を開ける。そーっと、そーっと、音を立てずに出そうとすると、持っているグラスのことを忘れて、グラスが落ちた。

「ガチャーン!」掟破りの破壊音が、暗闇をつんざく。

悪いことをした子供のように、上目づかいにあたりを見渡した。
わざとらしい咳払いが聞こえたが、誰も来る様子は無い。
一人きりで小さな破片を一つずつ拾い、丸まった背中には「後悔」という大きな二文字がのっかっていた。

朝はいつもより一時間早く出社した。営業所で誰にも気遣わずにタバコをふかす時間が何よりもいとおしくなった。

ある晩、同僚と飲んで帰ると、深夜にも関わらず愛犬ラッキーが騒いだ。
チャイムを鳴らし、ドアを開けてもらうと全員整列。ヒンシュクの白い空気。
誰も何も言わない。うるさいのは犬だけ。

(なんで文句いわないんだ?怒ってるんだろ?突っ立ってないで何か言えばいいのに)

パジャマの背中で非難をあびせながら、老夫婦は階段を上った。
呆れた顔で妻は言った。

「マモルぅ、ラッキーが吠えるから早く帰って来てね。皆眠れないでしょ。」
「あっ、お風呂出たら栓を抜いといてね。じゃ、先に寝るから。」

うれしそうなラッキーとは対照的に、疲労感に押し潰されそうなマモルであった。


第四週  深夜のマスオさん

愛犬のラッキーは4年前から飼い始めた。ペットショップの友人に勧められ、衝動買いをしてしまった。

室内犬ではあるが、やたらと吠える、何でも噛む、困った性格で、その実飼い主に似ているのは否定できない。

「おまえにグチ言っても、分かるほど頭良くないしな。」
「風呂の栓抜けってよ。亭主のお仕事って大変だろ?」

例えようも無いグレーな気持ちで風呂に向かった。

昨日は日曜日だったので、老夫婦よりも先に子供と風呂に入った。
厳しい視線を感じ、あわてて発した一言

「お先にお風呂頂戴します!」と。

「この風呂にも良いイメージは持てそうも無いな」

疲労感を背中にしょったままマモルは風呂に入り、つかの間の休息感にひたっていた。

電球がチカチカしていた。

(あれ?あの電球ヤバくないのかな?)

マモルは電気関係を全て比留間電機に任せていた。普段から会社の帰りに立ち寄り、何気なくコンピューターをのぞくのが楽しみだった。

若旦那とも親しくなり、最近ではゴルフ談義に花が咲くことがある。

「比留間さんは飛ばすんですってね?」

「ええ、アプローチで次のホールですから。マモルさんだって。」

「そうなんです。パターで100ヤードなんです。」

ヘタ同士の会話は不毛なだけ。

(あー、そうか。出る時に栓を抜けって言ってたっけ)
(はいはい、分かりましたよ)

けだるさを腕に感じながら、栓を一気に抜いた。少しずつ下がっていく水面をぼんやり見つめていると、引き込まれる気がした。

翌朝、なんとなく険悪なムードに目がさめた。言い争う声。

(な、なんなんだ?子供がなんかしたのか?)

するとドアの向こうから、一直線にその声は聞こえてきた。

「いったい誰がお風呂の栓を抜いちゃったの?!掃除もしてないじゃない。いーい、うちでは栓を抜く前に掃除をしてるのよ。」

「まったく、乾いちゃったら髪の毛がくっ付いちゃって、洗いにくいじゃないの。掃除する人のことも考えて欲しいもんだわ!」

まさしく妻の母の声だ。

(やばい!)

朝の尿意をひたすらこらえ、音を立てまいとじーっとしているマモル。
出社に遅れるわけにはいかないので、そーっと着替え始める。

やがて「バタン!」と言う通常はありえない、大きなドアの閉まる音が聞こえた。
マモルはそーっとドアを開けた。
まるで何も無かったかのような妻の顔。

「おはよう。遅れるわよ。」

(そ、それだけ?)

朝食もどこに収まったか分からないまま、コーヒーで流し込み、そそくさと家を出た。

(少しあのウチの習慣を教わらないと。)

確実に「らしくなってゆく」マモルであった。


 

第五週  先輩現る!

鍵を持つことを許可されないマモルは、極端に付き合いが悪くなっていた。皆が起きている時間に帰るのが鉄則。

会社では、当初興味津々な目で見られていたが、最近では誘いの声もかからず、寂しい思いをしていた。

ある日、昼休みに山下先輩が近寄ってきた。彼は結婚当初から奥さんの実家で生活している。義父が二世帯住宅に建て替えてくれたそうで。

「マサルくん。どう、慣れた?」

普段めったに口をきかない相手から、突然親しげな言葉。

「いやー、結構気を使うもんでしょ?」
「うちは二世帯と言っても、一つのようなもんでね。」
「分かるよ、うーん。」

勝手に話す先輩をあんぐりして見ている。

(この人、こんな感じだったっけ?)

影が薄いイメージだった山下先輩が、「ぬりかべ」のようなインパクトで、横に立っている。

「でも君は良いじゃない。だって、すぐに戻れるんだろ?」

「はあ、工事が順調に終わればですが。まだ2ヶ月は。」

「いやー、羨ましい。たった2ヶ月か。」

先輩はぶつぶつ言いながら、離れて行った。

(きょ、教訓はくれないの?)

会社帰りは出来るだけ八幡山の家を見に行くようにした。
進行具合が気になるのと、この町の人に会いたいから。

昨日は八幡山で丸昭の若旦那に出会った。

「大丈夫っスか、マモルさん?」

「ああ。あれ?仕事中じゃないの?」

「関係無いっスよ。おやじがビンビンですから。それより元気無いっスよ。今度飲みに行きましょうよ!」

元気なヤンパパに圧倒されるマモル。

一昨日はビッグホームの親子とであった。ビッグホームの社長には、八幡山に来た時に世話になり、それからもゴルフや飲み会で付き合っている。若社長は元スポーツマンらしく、礼儀正しい好青年。一度飲み会で楽しい時間を過ごしたことがある。

「あっ、社長。お久しぶりです。」

「おー、マモルくん。どう、うまくいってる?」

(どっちの話だ?)

「えー、ぼちぼち。」

つまらない会話でも、懐かしさを取り戻す瞬間。
皆で酒を飲み、ワイワイ騒げる日がくることを、祈るマモルであった。


 

第六週  運動会だよ、マスオさん

今日は日曜日。そして子供の運動会当日。
いわゆる「ジジ、ババ、パパ、ママ」全員で見に行くことになっていた。

マモル夫妻が今回妻の実家を間借りする理由の一つは、子供が転校しないで通える範囲に実家があったから。

だからおじいちゃんもおばあちゃんも、孫の活躍を楽しみに毎年応援に来ていた。
今までなら、老夫婦と若夫婦の四人は当日に顔を合わせ、運動会の話題だけで過ごせば良かった。

今年は違う。

一週間前から運動会の話題が始まり、弁当の準備、子供の演技の位置、カメラ・ビデオの担当者、事細かに打ち合わせをさせられた。

(他に話題は無いのか?)

連日繰り返される段取りの確認に、マモルは嫌気がさしていた。
楽しみにしてくれるのは、正直に有難いと思う。ただ、適当にお願いしますよ、と言いたいだけ。
例年無難にやってきたし、今は考えたくないし、休みたい。

(どうして仕切りたがるんだろう?)

疑問と不満を抱きつつ、マモルはひたすら「うなづきマシン」となっていた。マモルにとって愛すべきモノとは平和に他ならないから。

快晴のもと、運動会は始まった。校庭でまた丸昭の若旦那に話しかけられた。

「あっ、マモルさん。元気っスか?」

「勘弁してよ、元気なワケ無いじゃない。」

「大丈夫っスか?今日は忙しいっスよ。」

(そうなんだよな。ビデオが鉛のように重いよ。)

若旦那が自分の子供のビデオを取り始めたので、子供の姿をビデオに収める最適な場所を探していると、「マモルさん、こっち!」と妻の母の指示が飛んだ。

(おいおい、好きにやらせてくれよ)

一時が万事で、おばあちゃんプロデュースの運動会は終わった。
子供も活躍し、子供のいた白組も勝ち、言うことはないはず。

しかしマモルの疲労度は限界に来ていた。越えてはいけない一線を超えずにいられたのは、子供の誇らしげな笑顔のお陰。

(まあ、いいか)

しばらくは子供の活躍を話題にしてくれれば。
明日も早めに出社して、どこかで昼寝することを心に誓うマモルであった。


 

第七週  浮きまくりのマスオさん

土曜日も日曜日も、出来るだけ仕事を探しては出かけた。
しかし今のご時世、そうは仕事が残っているものではない。

先週は仕事のフリして家を出て、わざわざ八幡山へ出かけ、京八で五目そばを食べた。

「あれ?マモルくん、引っ越したんじゃなかった?」

「そ、そうですよ。家を見に来たんです。」

「改築は進んでるの?それより、うまくやってるの?」

京八の若旦那は面倒見が良い。正直な話をして、数時間座敷で無駄話に付き合ってもらいたいと思った。

今朝は朝から雨が降っているせいか、空気がドーンと重い気がする。
二週続けて、家を出てブラブラするのはキツイ。

(たまには存在感出してみようか)

元気なのにツキの無い日は、たいてい余計な発想をするもの。

午前9時、皆がテレビを見ながら雑談している居間に入って、自分の座れる場所を確認し、隅っこに座った。

「あ、お父さん、おはようございます」
「あー、おはよう」
「嫌な雨ですね」
「うん」

会話は短い。マモルが営業マンでなかったら成立しないだろう。

「嫌な雨ですね」
「私のせいだと言うのかね」と言われるより、どんなに平和なことか、マモルは修行の成果を着実に身につけていた。

「はい、マモル、お茶」

妻が女神に見える瞬間。
目頭が熱くなって、鼻の奥の方で、ツーっと一筋の鼻水が流れた。

無言の一時間が経過した頃、子供が入ってきた。あくびをしながらの「おはよー」は、高齢者の耳には聞こえない。

「おはようございますは?」
「おじいちゃん、今言ったじゃない」と子供。

(そうだ、そうだ。耳、大丈夫?)

「大きな声で挨拶するもんでしょ?それに、もう朝じゃない」

「はーい。で、今日どっか行くの?」
「今日は、おじいちゃんとウチでテレビゲームでもしようか」
「いいよ。教えてあげるよ」
「そーか、そーか!おじいちゃん、頑張るからね。」

(子供はいいよな。)

酸いも甘いも心得ているのは、営業マンではなく、甘えん坊の孫の方だった。

(オレは何しようかな。また寝るのもつまらないし)

「マモルぅ、ゴロゴロしてたら?」

(それはオレの存在そのものじゃないか)
(ズーっと部屋に閉じこもっていれば良かった)

浮いていると言うよりも、今だ地に足の付かないマモルであった。




第八週  耐え続けるマスオさん

やっと同居が始まって二ヶ月になろうとした頃、マモルの体調に変化が見られるようになった。体重が落ち、頬もこけてきた。

幸いにも八幡山の自宅の改築工事は順調で、それが何と言っても救いである。そんな様子を確認して帰る途中、八幡山薬局に立ち寄った。

薬局の若旦那が愛想良く出てきた。ボーっと立っていると、

「どこか具合でも悪いのですか?」

(生活の全てが具合悪いんだ)

あまり面識の無い若旦那だが、全ての愚痴をさらけ出したい気分になった。

「あ、あの、胃が痛くなる時がありまして。キューっと。」
「それはいけませんね」それからいくつか質問をしてきた。

「かなりストレスを貯めているようですね。」

(ピーンポーン!)(この人は易者か?)

「気を使いすぎて、胃酸過多傾向ですね。もっと、自分の体を大切にして下さいね。」

その言葉を袋に入れてもらえば充分だった。
早速家に帰り、薬を飲んでいると、妻がそばを通った。

「あれ?マモルぅ、あそこで薬を買ったの?」と袋を眺めている。

「ああ。」

「どうしたの? あっ、スタンプもらった?」

(おれの体とスタンプ、どっちが大切なんだ!?)

「タバコの吸いすぎじゃないの?」

確かに最近は増えている。家の中では吸えないので、庭や玄関を出て吸うし、外出時は吸ってから帰るなど、普段より確実に多い。

ある日曜日のことだった。

マモルがそっと玄関のドアを開け、外に出て、一服した時のことだった。吸い終わって再びドアを開けようとしたら、いつの間にか鍵がかかっていたので、仕方なくチャイムを鳴らした。

「どなた?」 妻の母の声。
「お母さん、マモルです!」
「あら、マモルさん、どうしたの?」

(あら・どうしたの、じゃないよ。誰が鍵かけたんだ!)

鍵が開く音が2回して、少しドアが開いた。

「本当だわ」 チェーン越しの確認は終了した。

「いやだわ、驚かさないでよ。」
「は、は、すみませんね。」 赤べこのようにペコペコするマモル。

そんなことが何回かあり、その都度どこで寝ようか心配したもの。

(吸いすぎじゃない。やっぱりストレスだ!)

忘れかけた胃の痛みが、再び燃え上がるマモルだった。


第九週  マスオさんの逆襲

イラつく気持ちに耐えられず、マモルは八幡山で降りて、甲州街道沿いの潮さんへ立ち寄った。潮さんのマスターはいつもマモルの愚痴を聞いてくれる。夜遅くなっても相手をしてくれる。

気が大きくなったマモルは一駅を歩き、ドラックストアーで12ロール入りのトイレットペーパーを4つも買って、両手にぶら下げて家に着いた。

数日前に妻の母がこぼしていた。
「人が増えると減りが早いわね」

単にそれだけのセリフなのに、許容できない状態になっていた。
生活費は折半でやるという約束だったが、妻の甘えの為に生活費のほとんどが両親の財布から出ていた。

「ちゃんと出してるんだろうな」
「いいじゃない、あれで喜んでるんだから」

「オレの立場がないだろ」
「トイレットペーパーくらいで心配することないわよ」

マモルにとって、「くらい」は「さえ」に思える時があるのに、妻はそれを理解しない。

酔った勢いの愚行ではあるが、全て計画を実行しなければ気がおさまらない。
まず両手がふさがっているので、ドアを誰かに開けてもらわないといけない。塀から爪先立ちで家を覗き込む。
妻を発見。
両親は2階の自分たちの部屋にいる様子。

(よし!)

チャイムを鼻で押し、妻がドアを開けた。あっけに取られた顔。

「何やってるの!バカみたい」

マモルは玄関に爆弾を置いて、さっさと部屋に入った。

(これで思いっきりウンコしてやる)幼稚な酔っ払いの独り言。
(冗談じゃない・・・

『・・・・・・』
『マモルくん、朝の挨拶はどうしたんだね?』
『して欲しかったら、自分からすべきでしょうが!』

『しつけがなってないから、孫は挨拶もできない』
『(両耳を引っ張って)この耳が聞こえないのか!』  ・・・)

後味の悪い夢だった。目が覚めると妻と母親の声がした。

「安かったから買い込んで来ちゃった。」
「四つも買って。置き場所の方が大変でしょ。」
「ついでよ、ついで。」
「本当に変な娘だよ。」

(そう言うことで治めるつもりか)

以後、トイレさえも気を許せなくなったマモルであった。




第十週  頑張れ、マスオさん!

自宅の改装は順調に終わり、いよいよ来週は引越しをする。
約3ヶ月間の辛抱が実る日が近づいて来ている。

正直なところは、一番神経を使ったのは妻の両親のはず。
娘夫婦の幸せのバックアップをし、同時に可愛い孫と一緒に生活できる喜びを感じながらも、マモルに嫌味にならないよう精一杯気を使っていた。それは高齢者には少々キツかった。

マモルもそれが分からない訳ではない。
ただ年の差が合い通じる部分を細めていただけ。

(男は常に次のステップを意識しなくてはならない。)

マモルの頭には、引越しの段取り、返済のことで一杯だった。
しかし彼の表情が日増しに明るくなっていくのを、皆が気付いていた。

「うなづきマシン」は軽快で、その場の雰囲気も良好となった。

「マモルさん、運動会の写真、見ました?」
「はい、わざわざ前田写真さんに持っていった甲斐がありましたね。」

前田写真の若旦那は人懐っこく、「良い写真ですね」とほめてくれる。
今回はCDに焼いてもらい、パソコンで加工しようと思っていた。

「でもなんか寂しいわね。やっと慣れてきたのに。」
「そうですね。おかあさん、本当にお世話になりました。」

余裕がある時は不思議と名文句が出てくるもの。

「マモルさん、あと一ヶ月、どお?」
「いや、あの、予定が・・・」

思いもよらない一言に絶句するマモル。

「わたしは良いわよ、ねえ、マモル?」

(洒落にならないよ。勘弁してほしい)

最後の悪ふざけと言うべき妻の一言に驚いた子供は、自分の両親の顔を交互にうかがってていた。
子供の直感は恐いもので、どちらが強いか瞬時に感じ取り、弱い方をカバーしようとする。
実際、マモルは幾度と子供に助けられたことか。

「ボクは新しいおうちに住みたいもん。」
「じゃあ、近いんだから、おばあちゃんが毎日遊びに行こうかな?」
「・・・いいよ。」

(大人気ない交渉じゃないか。冗談じゃない)

今日は日曜日。夕方の六時を過ぎて「サザエさん」が始まった。
『カツオくーん』困りきったマスオさんの声に振り向き

(先輩、一足お先に失礼します)
(頑張って!)

目を細め、安堵の一服をする為に、庭へと出て行くマモルであった。


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なお、この物語は会員関係者の話題をヒントに作成されたもので、99%フィクションです。物語に他意はございませんので、ご了承下さい。また主人公とおぼしき人物及び執筆者について公表することはできません。著作権は「八幡山どっとこむ運営委員会」に帰属いたします。


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