|
和服姿の女性が幽霊であることは直感できた。
(浩二の言ったとおりになったな。)
妙に落ち着いている貴志。
半分透けているような姿を観察し続けた。
髪は黒く長い。着物は知識がないので良くは分からないが、よく旅館の仲居さんが着るような感じで、古風な模様だった。
うなだれているので表情を見ることは出来ないが、細面の古風な顔立ち。歳は30前かも知れない。もちろん肌は青白いが、美人と見えて恐くない。襲ってくる気もしなかった。
二人(?)の沈黙が続いた。
(あのー、どちら様ですか?って聞くのはおれのセリフかな?)
貴志が声を発した。
「あの、私は今日からこの家に住むことになりました、貴志と申します。あの、良かったらお名前を教えていただけませんですか?」
女は動かない。うつむいたまま。
「いや、良いんですよ、本当に。そりゃあ、初対面の男に簡単に名前を教えるわけないですよね。現代女性じゃあるまいしね。」
「あっ、そうそう。やっぱこれを聞かなくてはいけませんよね。あの、ですから、私がこの家に住まわせてもらっても良いかってことですよ。」
女は小さくうなずいた。
「あっ、そうですか、良いんですか。有難うございます。」
貴志は深々と頭を下げた。
「じゃあ、私はあなたのお邪魔はしませんので、これからよろしくお願いします。」
もう一度頭を下げると、女は消えた。
あたりを見渡したが、もう姿は無かった。静かだった。耳が痛くなりそうなくらいに。
(なんだろ?シナリオどおりって感じだ。恐くない。逆に好感が持てそうなのはなんでだろう?)
(おれはこの家を決める時から、こんなことを期待してたのかな?)
一人ぶつぶつと考えながら眠りについた。
翌朝、不思議なほど熟睡し、すっきりと目がさめた。
(今日はドンキとヤマダ電機に行って、買い物してこなくちゃ。)
貴志のメモ帳には、テーブル、クッション、テレビ、冷蔵庫、その他多数の生活用品が列挙されていた。
午前中にドンキで生活雑貨を揃え、搬入する。
昼はまず中華そば屋で食事をした。大学のクラブ時代から知っている店だ。
人懐こそうなお兄さんに「あの」話をしようかと思ったが、やめた。
「ご馳走様!」
(おれも常連になりそうだな。)
店を出て、ヤマダ電機へ向かう。数点を買い求めたが、重いものばかりなので宅配をお願いし、テレビだけを抱えて帰った。
テレビを設置し、電源を入れると、部屋の中が賑やかになった。
(これで少し退屈しなくなったな)
テレビの位置は、昨晩あの女が座っていた反対側。
テレビを見ながらふと右を見ると、彼女が座っていた。
「あ、テレビ買ってきたんです。う、うるさいですか?」
女は黙っていた。
「良かったら、一緒に見ましょうよ。この番組面白いですよ。」
別に妙なナンパではないが、とりあえずご機嫌を取る方向にいってしまう。
女の口元が笑った。かすかではあるが。貴志が面白いという番組を二人で見終わった。
女はずーっと正座をしている。
「あの、座りっぱなしで足が痛くないですか?クッション・・・」
(いけない!幽霊に足なんか無いんだ!怒ったらどうしよう。)
はらはら、どきどきと緊張する貴志。しかし女は再び口元が緩み、
「ゆき」
と言った。その声は彼女の後ろから聞こえてくるような、遠い、か細い声だった。
|